円安による大きな影響はないという日銀の判断には同意できない

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このところの円安で物価が上がったという意見がある。為替市場への介入があるのではないかというのがもっぱらの関心事だった。しかし、日本銀行は先の金融政策決定会合で、「今のところ大きな影響はない」という判断をした。当然、金利を上げて市場介入する考えは否定した。この判断が正しいのだろうか?

円安は進んでいるように思われるが・・・?

日本銀行の金融政策決定会合が開かれたのは4月25、26日の2日間だ。それまで為替市場の円相場は154円台だった。それでも今年の年初と比べると12円くらい円安が進んでいる。一部の企業では、円安による輸入原材料の上昇で経営が苦しくなっているという意見もある。そこで、政府・日銀が為替介入に踏み切るのではないかという見方が出ていた。ところが日本銀行は、金融政策を据え置く判断をした。つまり、金利の引き上げはしない、市場介入はしないと言うことだ。これを受けて東京外国為替市場では、その日のうちに1ドルが156円台まで円安が進んだ。翌日には1ドル158円になった。

政府・日銀はこれまでにも「円安が賃金と物価の循環に無視できない影響を与えそうなら金融政策の判断材料になる」と言い続けてきた。これは一般論で、この段階でとどまっているなら「口先介入」といって済ませることができる。 それでも、ひょっとしたら市場介入するかもしれないという懸念はあった。それを否定した日銀の判断の根拠は何だろう。

今のところ大きな影響はない・・・

日本銀行の説明は「基調的な物価上昇率には今のところ大きな影響はない」ということだった。「基調的な物価上昇率」という言葉は意味が曖昧だ。それ以上に「大きな影響ははい」という意味がわからない。どの程度のことを念頭に置いているのだろかか? 円相場が10%くらい円安になってもたいしたことではないという意味だろうか? それではどのくらい円安になったら影響があるというのだろいうか?

さらに分からないのは次の判断だ。「為替変動はインフレ率に影響するが、為替が若干円安になることの影響は通常一時的にとどまる」。これについては記者が「(円安の)影響は無視できる範囲だったという認識か」と質問したのに対して、植田総裁は「はい」と答えている。これで分かったことは、日銀は今の円安は一時的なもので、問題に値しないと判断していることだ。そして、さらにうがった見方をすれば、今、市場介入しても一時的に円が高くなるだけで、すぐに元にも取ってしまうから、介入の意味はない、ということだろう。

この判断を認めてしまうと、金融政策などできなくなる。30円も50円も円安が進んで初めて金融引き締めをするのなら、専門家は必要ないだろう。そのくらいは素人でも判断できる。今は日本中が大型連休で為替市場も休んでいるが、海外では1ドルが一時160円を超えた。しかし、日本銀行が「今の円安は大きな影響はない」「円安は一次的なものだ」と言ってしまった以上、今更金利の引き上げなどできないだろう。もし、市場介入に踏み切れば、先の判断は何だったのか、という問題になるだろう。

過去にもあった日銀の判断ミス

なぜ、こんな言い方をするのか? 不思議に思うかもしれないが、日銀は過去にも独断による判断ミスをしたことがある。2022年6月、当時の黒田総裁が講演で、「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言した。これに対して野党議員が財務金融委員会で「消費者と認識が違う」と批判して、発言の撤回を求め、黒田総裁もこれを認めて撤回、謝罪したことがある。この問題の発端は東大教授の研究だったが、十分な結論が出ていないのに、勝手に決めつけて発言したところに問題があったと総裁自ら認めている。

今回の円安の評価も、明確な基準がなく、感覚的なものだけに、判断が適当だったのかどうか、疑問が残る。「消費者と認識が違う」と言われたら反論できるのだろうか? 日本銀行の政策はこれまでにも何度も「早すぎた」「遅すぎた」と批判されてきた。庶民感覚と異なる判断をして、政策が手遅れになるようなことがないことを祈りたい。

消費者の関心は今日、明日のアメリカのFRBの会議に移っている。しかし、金利引き下げの予想は遠のいている。アメリカの金利が下がらず、日本の金利は上がらずでは、円安は止まらない。一時1ドルが160円を超えたあと、市場介入とみられる為替の乱高下も一段落して、1ドル156円台に戻っている。日銀の金融政策決定会合の直後のままだ。これから為替相場がどうなるか、注目だ。###

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